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インターネット上の「犯人特定」サービスの法的問題点

頻繁に問い合わせいただくというわけでもないのですが、当社の誹謗中傷対策チームから相談される事項で、「犯人特定」(事実無根の内容により、権利侵害書き込みを行った者の住所等の個人情報の特定依頼)があります。

基本的に、当社では、犯人特定をサービス化しておりませんが、これらのサービスには、サービス提供者や依頼者(顧客、クライアント)が乗り越えなければならない法的問題があると考えています。これらの法的問題を乗り越えることなしに、権利侵害情報を書き込まれたので、その書き込んだ人物を特定してほしいという安易な依頼をすべきではないですし、その依頼をお金のために受けるということは言語道断であると思います。簡単に申し上げれば、もしもその書き込んだと思われる人物が、実際には書き込んでいなかった場合や書き込んだ内容がそもそも権利侵害(名誉毀損やプライバシー、著作権法違反など)を構成していなかった場合(誤った情報開示)には、特定され公表された人物に対する損害賠償や名誉を回復する措置等はどのようにするのでしょうか。この点、おそらく、「犯人特定のサービス提供者」は何も考えていないでしょう。そして、もしも何かが起こったら、依頼者の要望に従っただけなので、その責任の一切は依頼者にあるということで免責を主張するかもしれません。法も「情報開示をしなかったこと」よりも「誤った情報開示をしたこと」を重く考えているようです。

では、犯人特定の法的問題点について私が考えていることをお伝えしましょう。結論は、安易に犯人特定サービスを利用すると危険であるということです。

1.民間の一業者が、簡単に個人を特定する情報(住所、氏名、IPアドレス、電子メールアドレス、書き込み時間など)を手に入れられること自体が問題。

これらの情報は、プロバイダーと呼ばれる電気通信事業者の下に保管されている情報ですが、その情報保管者ではない「犯人特定をサービス化」している者に対して、簡単に(語弊があるかもしれませんが、正式な裁判手続き、命令等がなく)教えているとしたら大問題でしょう。(ブログサービス提供者やサーバーサービス提供者など。一部、お金で情報提供しているなどという噂を聞きますが…悲しい)

堂々と、「犯人特定ができる」とインターネットという空間で商売にしている私たちのような業者が言ってしまえば、インターネット世界の発展を阻害することになり、完全に自己矛盾を起こしていることになります。いつ、誰が、どのような内容を書き込んだかということが、特定されるだけでなく、その情報を教えてほしいと言った人にいとも簡単に情報が渡ってしまうとしたら、インターネットを利用して情報交換など恐ろしくて一切できなくなってしまいます。そうすれば、インターネットは個人情報が垂れ流されてしまう危険性の高い空間であるので、利用を控えようという動きや、個人情報に対するさらに厳しい規定を制定・運用していこうという動きになり、非常に息苦しくなってしまうでしょう。たしかに技術的には個人特定ができるかもしれないが、それらは、本当に権利侵害をされて困っている人(つまり、法が予定している要件を満たす場合)を助けるときだけに限定的に利用されるべきだと私は考えています。

2.権利侵害と思われる書き込みの判断基準の曖昧さ。

権利侵害と思われる書き込みの判断は、非常に難しいところがあります。なんでもかんでも権利侵害だと決めつけるのは簡単なことですが、一つ一つの状況を確認すると、実は、権利侵害を構成していない場合もあります。権利侵害と思われる書き込みは、たとえば、名誉毀損やプライバシーの問題、著作権法違反などが考えられます。(よくご相談されるのは、だいたいこの3つです)

名誉毀損が多くを占めると思われますが、刑法230条の名誉毀損の違法性阻却事由を発信者が証明できた場合には、名誉毀損は免責されるのです。その違法性阻却事由とは、事実を摘示して名誉を棄損した場合、①それが公共の利害に関する事実に係り、②その目的が専ら公益を図ることにあり、③摘示した事実が真実であると証明されたときは、違法性が阻却され名誉毀損は成立しません。民事でも同様の要件で違法性が阻却されるでしょう。名誉毀損の違法性阻却3要件を立証するのは発信者(書き込んだ人)でありますので、プロバイダーではないことも注意が必要です。もちろん、民間の一業者にもありません。

3.法は、「誤った不開示よりも誤った情報開示」のほうを重く考えている。(プロバイダ責任制限法の発信者情報開示請求権)

プロバイダーは被害者との関係もありますが、もちろん契約や規約でそのサービスを利用している発信者(書き込み者、権利侵害と思われる人)との関係もありますので、一方的に被害者保護だけを考えるわけにはいきません。本当に被害者かどうかなど事例を見てみないとわかりませんから。

プロバイダ責任制限法は、被害者から発信者情報の開示を請求された場合には、一応、発信者にの意見を聞くことが求められています。(4条2項) 発信者が開示に同意しなかった場合には、基本的にはプロバイダーは情報を開示する必要はないでしょう。発信者の不同意及び権利侵害かどうかの判断はプロバイダーにはできない等の理由から裁判所の正式な開示命令を待つことになった(ある意味、放置した)としても責任を問われることは小さいと思われます。

よって、誤った不開示(①名誉毀損の成立していることが明らかな時、②発信者情報の開示が発信者に損害賠償を請求するために必要である等開示を求めることに正当な理由がある時、左記①②を充足していないと考えて被害者に対して開示しなかったこと)よりも誤った開示のほうを重くしています。誤った開示の場合には、同法とは関係なく、民法の不法行為法で処理されることになると考えられます。(プロバイダと発信者の関係で。もちろんその間に、犯人特定サービス提供者や依頼者がいればそれらも同様に責任追及の対象となる可能性があります)だから、簡単には情報を開示してはいけないと法も予定しています。ということは、この点の理解を薄くして、法は開示するよう義務付けているというような一側面だけを強調した営業トークなどは非常に危険ですのでご注意ください。

以上のことから、「犯人特定」サービスを提供及び依頼するのはかなりのリスクを負うことになります。もちろん憲法で職業選択の自由などが保障されていますから、基本的にはどのようなサービスを展開しても問題はないかと思いますが、この程度のレベルを考慮することなし(考慮しているのならば、依頼者に対して重要事項の説明をしたり、時には諌めることも必要でしょう)にサービスを提供しているとなると、なんだか世も末だなという気持ちになります。もしも本当に犯人特定をしたいということでしたら、粛々と法に基づいて対応されたほうがよろしいかと思います。インターネットによる犯人特定を遂行した場合にはおそらく依頼者がすべての責任をとらないといけませんから。私は、単純なお金儲けではなく、しっかりと倫理観を持った上で事業を展開していきたいと思います。それが、当社のビジョンである「世界で最も尊敬される企業になる」ということだと一同考えております。

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